半単純加群
半単純加群(はんたんじゅんかぐん、英: semisimple module)とは、単純加群の(有限とは限らない)直和として書ける加群のことである。いくつかの非自明な特徴づけがある。
定義[編集 | ソースを編集]
環 $\Lambda$ 上の加群 $M$ が半単純(semisimple)であるとは、ある単純 $\Lambda$ 加群 $S_i$ の族 $ \{ S_i \mid i \in I \}$ が存在して、$M$ が $\bigoplus_{i \in I} S_i$ と同型なときをいう。
同値な定義[編集 | ソースを編集]
以下の非自明な特徴づけが存在する。
加群 $M$ について次は同値である。
- $M$ は半単純。
- $\soc M = M$ が成り立つ($\soc M$ は $M$ の底(socle))。
- 完全列 $0 \to L \to M \to N \to 0$ が存在すれば、これは分裂している。
証明はZornの補題を使って頑張るもので、非自明だが標準的である。
一般化[編集 | ソースを編集]
半単純加群の定義は、そのまま(無限直和を持つような)アーベル圏に一般化すること自体は可能であるが、上の同値性は成り立たない。また、単純加群は自己双対的な概念であるのに対して、半単純加群は(上の定義では)自己双対的ではない、つまり、アーベル圏などにおいて半単純対象を同様に定義しても、それは自己双対(反対圏で半単純対象)とは限らない。
実際、アーベル群の圏 $\Ab$ の双対圏$\Ab^\op$ における「単純対象の直和と同型な対象」は、$\Ab$ において「単純加群の直積と同型な対象」となり、これは半単純加群とは異なる。
しかし、上の命題の2の短完全列を用いた定義は自己双対的である。またこれは、$M$ の部分加群のなす束が可補束であることとも言い換えられる。
実は、上の命題は、よい条件を満たすモジュラー束が、socle = 全体であることと、可補束であることが同値、という形で一般化することができる。これにより、例えばGrothendieck圏では上の同値性が成り立つ。よって、特に圏上の加群を考えても上の命題は成り立つことが分かる(これ自体は直接示すこともがんばれば可能である)。
長さ有限性の特徴づけ[編集 | ソースを編集]
無限生成も許した半単純加群は上に述べたような性質から振る舞いがあまり良くない。しかし、加群に有限性条件をつけると次の特徴づけが知られており、これは対称性が高い概念である。
半単純加群 $M$ について次は同値。
環の表現論では主に有限生成加群のみを扱うので、あまり細かいことは気にする必要はないかもしれない。
関連項目[編集 | ソースを編集]
双対概念[編集 | ソースを編集]
- Jacobson半単純加群:$M = \soc M$ という特徴づけについての双対概念で、$\rad M = 0$ を満たす加群 $M$のこと($\rad M$ は $M$ の根基)。