単純加群

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単純加群(たんじゅんかぐん、英: simple module)とは、自明な部分加群しか持たないような加群である。既約(きやく、英: irreducible)と呼ばれることもある(特に有限群の表現論などの文脈)。

定義[編集 | ソースを編集]

環 $\Lambda$ 上の加群 $S$ が単純(simple)であるとは、次の条件が満たされるときをいう:

  1. $S$ は0でない。
  2. $S$ の0でない部分加群は $S$ に限られる。

つまり部分加群をちょうど2つしか持たない加群といってもよい。

同値な定義[編集 | ソースを編集]

単純加群の定義から、以下の性質が直ちに従う。

命題

0でない加群 $S$ について次は同値である。

  • $S$ は単純。
  • 任意の準同型 $f \colon S \to X$ は単射である。
  • 任意の準同型 $g \colon X \to S$ は全射である。
  • 任意の0でない元 $x \in S$ は $S$ を生成する。
  • 完全列 $0 \to L \to S \to N \to 0$ が存在すれば、$L \cong 0$ または $N \cong 0$ である。

Schurの補題[編集 | ソースを編集]

上の同値な定義を使うことで、次の重要な事実が得られる。

定理(Schurの補題)

単純 $\Lambda$ 加群 $S$ について、自己準同型環 $\End_\Lambda(S)$ は可除環である、つまり $S$ は煉瓦である。より強く、単純加群 $S_1$ と $S_2$ に対して、準同型 $f \colon S_1 \to S_2$ が0でないならば同型である。

これはSchurの補題(シューアの補題、英: Schur's lemma)と呼ばれ、よく用いられる。

構造定理[編集 | ソースを編集]

単純加群は極大右イデアルを用いて記述できることがすぐに分かる:

命題

右 $\Lambda$ 加群 $S$ について次は同値である。

  1. $S$は単純。
  2. ある $\Lambda$ の極大右イデアル $M$ が存在し、$S$ は $\Lambda/M$ と同型。
証明

2ならば1は準同型定理における部分加群の対応から明らか。1ならば2は、0でない射 $\Lambda \to S$ を取れば $S$ の単純性からこれは全射であり、あとは準同型定理から従う。

一般化[編集 | ソースを編集]

以上は環上の加群を考えていたが、全く同様のことは圏上の加群アーベル圏でも成り立つ。

多元環の表現論において[編集 | ソースを編集]

単純加群は、全ての長さ有限加群を構成する部品と見れることから、明らかに重要な概念である。

他の加群との対応[編集 | ソースを編集]

まず半完全環において、単純加群と直既約射影加群が全単射なことが知られている。さらにアルティン代数では、直既約移入加群とも対応する。

また、箙多元環 $kQ / I$ では、単純加群はその箙 $Q$ の頂点と一対一に対応しており、箙の表現と見ると、頂点のみに1次元 $k$ が乗っていて他は全て0であるような表現が単純加群に対応する。


関連項目[編集 | ソースを編集]

一般概念[編集 | ソースを編集]

特殊概念[編集 | ソースを編集]