多元環の表現論

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多元環の表現論(たげんかんのひょうげんろん、英: representation theory of algebra)とは、多元環の表現=加群を研究する現代数学の分野である。

表現論[編集 | ソースを編集]

数学において表現論とは、ある代数的構造を持つ対象が、(主に)ベクトル空間にどう作用するかを調べる分野である。ここでの表現とは作用が入ったベクトル空間のことをいう。

主な対象[編集 | ソースを編集]

考える代数的構造を持つ対象として、以下のものが有名である。

共通の問題意識[編集 | ソースを編集]

いろいろな代数的対象についてそれぞれの表現論が発達しているが、いくつかの共通する問題意識がある。

表現の分類問題[編集 | ソースを編集]

与えられた代数的対象や特定の代数的対象について、それ上の表現としてどのようなものがあるかを完全に分類することが一つの大きな目標である。 例えば標数ゼロの体上では有限群の表現圏は半単純なので(Maschkeの定理)、任意の有限次元表現は一意的に既約表現(=単純加群)の有限直和に分解される。よって、有限群の表現論で一番基本的な問題は、「与えられた群に対して既約表現を全て求めよ」というものである。

半単純でない場合でも、表現論では多くの場合は「有限次元表現」に限ることが多い。その場合、任意の表現は直既約表現の有限直和に一意的に分解されるというKrull-Schmidtの定理が成り立つ [注釈 1]。よって、「直既約表現を全て分類せよ」というものが基本的な問題である。

しかし、全ての直既約表現を分類するのは一般には困難であり、事実上不可能な場合が多いという結果まである(野性的表現型参照)。

表現の構成[編集 | ソースを編集]

上の分類問題と背景は似ているが、与えられた代数的対象について、よい表現を構成する体系的な方法を与えることも重要である。例えば有限群の表現論では、具体的に与えられた群に対して既約表現をどう構成するかは一番基本的な問題である(例えば対称群の既約表現はYoung図形を用いて組合せ論的に構成される)。

他にも、直既約表現を具体的に構成する体系的な方法を与えることも重要である。

表現のなす圏の構造[編集 | ソースを編集]

表現のなす圏はアーベル圏になることが多いので、このアーベル圏がどのような圏論的な構造を持っているかを明らかにする、というスローガンが表現論(とくに多元環の表現論)ではよく用いられる。具体的にどのような構造をどう明らかにするか、という問題意識は、個々の分野によって異なる場合が多い。

多元環[編集 | ソースを編集]

多元環、より正確には有限次元多元環とは、体 $k$ 上の有限次元ベクトル空間に環構造が入っているものである。ここで環とは可換とは限らない。このとき、多元環の表現論とは、与えられた多元環 $\Lambda$ 上の表現=加群を調べる分野である。

なぜ多元環か?[編集 | ソースを編集]

読者の中には、次のような疑問を持つ方も大いに違いない。

  1. なぜわざわざ体上の多元環を考えるのか、単なる環では駄目なのか
  2. なぜ非可換環などという難しいものを考えるのか、可換環でさえ難しいのだから非可換環はもっと難しいのではないか

この疑問について回答を与えておく。

制限することでより豊かな構造が出現する[編集 | ソースを編集]

数学一般において、ある抽象的な対象を考えるより、その中の特別なクラスのよい対象を考えたほうが、実りの多い興味深い現象が観察されて理論が発展していく、というパターンはよく見受けられる。例えば一般のベクトル空間を考えるよりも、有限次元ベクトル空間のみに限定したほうが対称性が高く構造が具体的に分かる。もちろん限定した分で抽象性は失われるが、その分だけ、より豊かな構造が現れるという性質が数学にはありそうである。

(なにか具体的なそういう例がここに来る)

ここで環の表現論の問題に戻ると、もちろん一般の環上の加群論を調べるのは重要なことである(し、このwikiでは環を多元環に限らず、できるだけの一般性でいろいろ記事を書いている)。ただ、それだけでは一般的なホモロジー代数の教科書レベルのことしか言えず、詳細な構造はわからない。後で見ていくような箙の表現論、Auslander-Reiten理論、部分圏や加群の分類といった結果の多くは、多元環に限定して初めて観察される現象である。

多元環は可換環論より表現論的には簡単[編集 | ソースを編集]

次に可換環論との比較について述べる。まず重要なのは、環論には2つの大きな流れがあるということである:

  1. イデアル論:与えられた環上の(両側)イデアルを調べる分野。可換環論の主な対象はこのイデアル論である。これは、歴史的には可換環論が代数幾何との相互作用により発展してきて、イデアルを考えることが代数幾何と直接関係していることに由来する。逆に、非可換環では、イデアルを素朴に可換環論のように調べることは大変難しく技巧が必要とされる。
  2. 表現論:与えられた環上の加群を調べる分野。多元環の表現論はもちろんこれを対象とするが、可換環の表現論も可換環論の中では重要である。

ここで、イデアル論においては明らかに可換環論より非可換環(や多元環に限定しても)のほうが圧倒的に難しい(もちろん研究が無いという意味ではないが、古い時期に多く研究されており、最近の非可換環論の主流ではない)。しかし、表現論においては多元環のほうが可換環よりも敷居が低いことが言える。これは次のような理由からである。

  1. 多元環上の加群は、たかだか有限次元ベクトル空間なので、線形代数をフルに使うことができる。例えば基礎体上での双対空間を取るという操作で(有限生成)右加群の圏と左加群の圏が反変同値であることがここから従い、よって加群圏の対称性が高い。例えば加群圏が射影的に豊富という事実とこの双対から、加群圏は移入的にも豊富であることが従う。これは可換環の場合はアルティン環でしか起こり得ない、普通はない現象である。
  2. あとで多分見るように、多元環上の加群を考えることは、基本的に「関係式付きの有向グラフの表現」を考えることとほぼ等価である。この見方からすると、表現は本当に「ベクトル空間とその間の線形写像の図式のなす圏」を考えることと同じで、線形代数がフルに使えることが見て取れる。
  3. TODO:他の理由を追加

多元環の例[編集 | ソースを編集]

体 $k$ を固定する。ここでは多元環の具体例や、体系的な構成方法を紹介する。以下で見るように、本質的に全ての多元環はこのように得られる。

例(散発的な例)
  1. 体 $k$ 自身。
  2. 全行列環 $M_n(k)$:$n\times n$ 正方行列のなす環。

この2つの例は基本的であるが、$M_n(k)$ は $k$ に森田同値、つまり $M_n(k)$ 加群を考えることと $k$ 加群=ベクトル空間を考えることは全く同じであり、表現論(=加群圏の構造を調べる)の立場からすると、これらの例はちょうど学部で習う線形代数以上のものはない。

上三角行列環 $T_n(k)$:$M_n(k)$ の中で上三角な行列たちは部分環をなし、よって多元環である。例えば2次上三角行列環は次のような3次元の多元環である。 \[ T_2(k) = \begin{bmatrix} k & k \\ 0 & k \end{bmatrix} = \left\{ \begin{bmatrix} a & b \\ 0 & c \end{bmatrix} \,\middle\vert\, a,b,c \in k \right\}. \]

この $T_2(k)$ が、一番非自明で(加群圏が半単純でない)、しかも一番簡単な、いわゆるtoy exampleである。しかも、これは以下で見るA型箙道多元環とみなすこともでき、その意味で一番基本的なexampleである。

箙の道多元環[編集 | ソースを編集]

とは向きが付いたグラフのことである。

書きかけの項目. この項目は、書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています。

多元環の表現論の概観[編集 | ソースを編集]

以下では、具体的に多元環の表現論の重要な結果や考え方、また最先端の話題の動向について触れていく。

注釈[編集 | ソースを編集]

  1. 可換環の表現論は有限次元ベクトル空間上での表現を考えるわけではないが、多くは環を完備ネーター局所環と仮定する。この場合、有限生成加群のなす圏はKrull-Schmidt圏になる。Krull-Schmidt圏#応用参照。