射影加群

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射影加群(しゃえいかぐん、英: projective module)とは、射影的という性質で定義されたホモロジー代数で基本的な概念である。典型例は環自身やその直和(自由加群)である。また射影加群は直和因子で閉じるので、自由加群の直和因子も射影加群であり、後述のように逆も成り立つ、すなわち「射影加群はちょうど自由加群の直和因子」という特徴づけが成り立つ。

定義[編集 | ソースを編集]

射影性は同値な定義がいくつかあるが、下のものが一番典型的である。特に何も言わない限り全て 右 $\Lambda$ 加群の圏 $\Mod \Lambda$ で考える。

定義

環 $\Lambda$ 上の加群 $P$ が射影的射影加群)であるとは、次の条件をみたすときを言う:

  • 任意に全射 $f \colon M \twoheadrightarrow N$ と射 $\varphi \colon P \to N$ があったとき、これは $f$ を経由するようリフトする、すなわちある$\overline{\varphi}\colon P \to M$ が存在して $\varphi = f \overline{\varphi}$ となる。

TODO: 可換図式(リフトのやつ)をアップして貼り付ける

同値な定義[編集 | ソースを編集]

射影加群の定義にはさまざまな同値な定義がある。まず以下は、任意のアーベル圏完全圏で成り立つ同値条件である。

命題

環 $\Lambda$ 上の加群 $P$ について以下は同値。

  1. $P$ は射影加群。
  2. $\Hom_\Lambda(P, -) \colon \Mod\Lambda \to \Ab$ は完全関手(この関手は常に左完全ではあるので、つまり全射を保つ)。
  3. 任意の短完全列 $0 \to X \to Y \to P \to 0$ は分裂する。つまり、任意の $P$ への全射は分裂全射となる。

これらはほとんど定義からすぐ分かる(最後の条件との同値性はpullbackを使う必要があると思われる)。

さらに、環上の加群特有のこととして、次が成り立つ:

命題

環 $\Lambda$ 上の加群 $P$ について以下は同値。

  1. $P$ は射影加群。
  2. $P$ はある自由加群 $\bigoplus_{i \in I} \Lambda$ の直和因子と同型である。
証明

一般に射影加群は(無限)直和と直和因子で閉じることがすぐに分かるので、2ならば1である。逆は $P$ に対して自由加群からの全射 $\bigoplus_{i \in I} \Lambda \twoheadrightarrow P$ が必ず取れるので(ここが環特有)、これが分裂することから従う。

記法[編集 | ソースを編集]

射影加群のなす圏の記法として下のものが標準的である。

  • $\Proj\Lambda$:全ての(無限生成を含む)射影加群のなす圏。
  • $\proj\Lambda$:有限生成射影加群のなす圏。

また、アーベル圏完全圏 $\CC$ のなかの射影対象のなす圏の記法は、人によって異なるが、例えば圏 $\mathcal{P}(\CC)$ や $\proj \CC$ という記法がある。ただ後者は、射影的 $\CC$ 加群のなす圏(圏上の加群参照)を指すこともあるので注意が必要である。

射影加群の分類・構造定理[編集 | ソースを編集]

環の表現論という観点から一番基本的な問題は、全ての射影加群を具体的に記述できるか、というものである。しかし、もちろん自由加群は具体的に記述できるが、その直和因子がどういう形をしているかは、一般の環では(有限生成射影加群でさえも)おそらく難しい。

よって、環 $\Lambda$ に条件をつけた場合に、$\proj \Lambda$ や $\Proj \Lambda$ の対象を記述するという方向がある。この方向で、次の定理が一番重要であろう。

定理

環 $\Lambda$ を半完全環とすると、次が成り立つ。

  1. 任意の有限生成射影加群 $P \in \proj\Lambda$ は、直既約射影加群の有限直和として書け、その表し方は同型と並び替えを除いて一意的である。
  2. さらに、任意の直既約射影加群 $P$ は、必ず $\Lambda$ の直和因子として現れる。

つまり、$\Lambda$ の直既約分解 $\Lambda = P_1 \oplus \cdots \oplus P_n$ を一つ取ると、全ての有限生成射影加群は、必ずこの $P_i$ たちの直和として表すことができ、また $P_i$ たちを同型を除いて考えれば、この表し方は一意的である。

半完全環は片側アルティン環(特に有限次元多元環)などを含む広いクラスである。 これは、$\Lambda$ が半完全環なら $\proj \Lambda$ がKrull-Schmidt圏であるということからの帰結である。これにより、半完全環上の有限生成射影加群の構造は完全に決定されたといえる。

無限生成加群については普段は難しいので扱わないが、半完全環の場合は、(直既約射影加群がEnd局所加群である関係で)次の、そのままの構造定理が成り立つ。

定理

環 $\Lambda$ を半完全環とし、$\Lambda$ の直既約分解 $\Lambda = P_1 \oplus \cdots \oplus P_n$ を一つ取る。このとき、任意の(有限生成と限らない)射影加群は、$P_i$ たちの(有限とは限らない)直和と同型である。

証明は、無限生成の場合でもKrull-Schmidtの定理の証明がそのまま通用することを冷静に見ながらがんばる。Krull-Remak-Schmidt-Azumayaの定理参照?

Auslanderの射影化[編集 | ソースを編集]

(多元)環の表現論では有限生成射影加群のなす圏 $\proj\Lambda$ が非常によく現れる。この理由は、単に射影加群が重要だからというよりも、この圏がある種の普遍的な性質を満たす圏として特徴づけられるという点による。

具体的には、加法圏を $\proj \Lambda$ として実現する、次のAuslanderの射影化Auslander's projectivization)というテクニックがよく用いられる。

定理(Auslanderの射影化)

環 $\Lambda$ について、$\CC := \proj \Lambda$ と置くと、圏 $\CC$ は次の性質を満たす。

  1. $\CC$ は加法的生成子を持つ、すなわちある対象 $G \in \CC$ が存在して、$\CC = \add G$ が成り立つ。
  2. $\CC$ は冪等完備加法圏である。

逆に、加法圏 $\CC$ が冪等完備で加法的生成子を持つならば、ある環 $\Lambda$ が存在して、$\CC$ と $\proj\Lambda$ は圏同値である。

証明

環 $\Lambda$ に対して圏 $\proj \Lambda$ を考える。まず $\proj \Lambda = \add \Lambda$ であることは、上の「有限生成射影加群はちょうど全て有限生成自由加群の直和因子」という特徴づけそのものである。また、$\proj \Lambda$ が冪等完備なことは、$\Mod \Lambda$ という(冪等完備)アーベル圏のなかで $\proj\Lambda$ が直和と直和因子で閉じた部分圏であることから従う。

逆に、圏 $\CC$ が1と2の性質を満たすとする。このとき $\Lambda := \End_\CC(G)$ と置く。すると、関手 $\CC(G, -) \colon \CC \to \Mod\Lambda$ が定義されることが分かるが、これが $\CC \to \proj\Lambda$ に制限されることが $\add G = \CC$ から従い、また忠実充満も従う。さらに、冪等完備であることから、これが本質的全射であることも従う。

この定理では加法的生成子を持つという条件が付いていたが、これは「環上の」有限生成射影加群のなす圏を考えていたことからくる制約であり、これを外すと「冪等完備加法圏とは、ちょうど圏上の有限生成射影加群のなす圏である」という定理も同様に示すことができる。

この意味で、$\proj \Lambda$ を考えることは射影加群という特別な加群を考えているように見えるが、圏論的・表現論的に見るとかなり自然であることが分かる。多元環の表現論で重要なAuslander対応などは全てこの見方により見えてくるものである。

多元環の表現論において[編集 | ソースを編集]

Auslanderの射影化は加法圏についての一般論であるが、有限次元多元環の場合は、もっと具体的に射影加群を触ることができ、さらにAuslander-Reiten理論でも重要である(安定加群圏も参照)。

書きかけの項目. この項目は、書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています。

射影加群の記述[編集 | ソースを編集]

箙からくる場合。

安定圏[編集 | ソースを編集]

移入加群との関係[編集 | ソースを編集]

中山関手

関連項目[編集 | ソースを編集]

一般概念[編集 | ソースを編集]

双対概念[編集 | ソースを編集]

特殊概念[編集 | ソースを編集]

その他[編集 | ソースを編集]