局所環
局所環(きょくしょかん、英: local ring)とは、唯一の極大片側イデアルを持つような環である。
定義[編集 | ソースを編集]
環 $\Lambda$ が局所であるとは、唯一の極大右イデアルを持つときをいう。以下で述べるようにこれは左右対称な条件であり、すなわち「唯一の極大左イデアルを持つ」ことと同値となる。
同値な定義[編集 | ソースを編集]
多くの特徴づけが知られている。ここで $\rad \Lambda$ は$\Lambda$ のJacobson根基を表す。
環 $\Lambda$ について次は同値。
- $\Lambda$ は局所環、すなわち唯一の極大右イデアルを持つ。
- $\rad \Lambda$ は $\Lambda$ の極大右イデアルである。
- $\Lambda/\rad \Lambda$ は可除環である。
- $\Lambda/\rad \Lambda$ は右 $\Lambda$ 加群として単純加群である。
- $\rad \Lambda$ はちょうど $\Lambda$ の非可逆元全体と一致する、すなわち、$\Lambda$ は $\rad \Lambda$ と可逆元の集合とにdisjointに分割される。
- $\Lambda$ の非可逆元全体が両側イデアルになる。
- $\Lambda$ の非可逆元全体が右イデアルになる。
- $\Lambda$ の非可逆元全体が加法について閉じる。
- 任意の元 $x \in \Lambda$ について、$x$ と $1 - x$ のいずれかは可逆である。
- 上に出てきた各条件の「右」を「左」に置き換えた条件。
この特徴づけの多さは、環のJacobson根基の特徴づけの多さからも来ている。
性質[編集 | ソースを編集]
重要な性質として、冪等元についての次の性質がある。
$\Lambda$ を環としたとき、次の条件を考える。
- $\Lambda$ は局所環である。
- $\Lambda$ の冪等元は $0$ と $1$ のちょうど2つである。
このとき、1ならば2が成り立つ。さらに $\Lambda$ が半完全環ならば逆も成り立つ。
(1ならば2): 冪等元 $e$ を取ると、$e^2 = e$ なことから、$e(1-e) = 0$ である。ここで局所環の特徴づけの一つから、$e$ と $1-e$ のいずれかは可逆であることから、逆元をかけることによって、$e = 0$ または $e = 1$ が従う。
(2ならば1): 半完全環の定義にどれを採用するかによりいろんな言い方ができるが、簡単なもののみを取り上げる。仮定より $\Lambda$ が半完全環なので、$\Lambda$ は右 $\Lambda$ 加群として、End局所加群の有限直和に分解される。しかし、$\Lambda \cong \End_\Lambda(\Lambda)$ の冪等元が自明なものしかないことから、$\Lambda_\Lambda$ は直既約である(冪等射と直既約分解との対応参照)。よって、$\Lambda$ は右加群としてEnd局所となるので、$\Lambda$ は局所環である。
森田同値類[編集 | ソースを編集]
局所環は、「単純加群がただ一つしかない半完全環」の森田同値での完全代表系を与える:
環 $\Lambda$ について、次は同値。
- $\Lambda$ は局所環と森田同値である。
- $\Lambda$ は半完全環かつ、単純右 $\Lambda$ 加群は同型を除いてただ一つ。
- $\Lambda$ は半完全環かつ、単純左 $\Lambda$ 加群は同型を除いてただ一つ。
さらに、2つの局所環 $\Lambda_1$ と $\Lambda_2$ が森田同値ならば、それらは同型である。
多元環の表現論において[編集 | ソースを編集]
上で述べたように、局所環は本質的に「単純加群がただ一つしかない環」のことである。
箙多元環の場合[編集 | ソースを編集]
箙多元環 $kQ / I$ が局所であることは、ちょうど $Q$ の頂点が1つしかないことと同値である。つまり、そのような有限次元多元環は、非可換多項式環のイデアル商に限られる。
加群圏の部分圏[編集 | ソースを編集]
局所環 $\Lambda$ に対して $\mod\Lambda$ には単純加群がただ一つしかない。このことから次の部分圏についての性質が分かる。
$\Lambda$を有限次元多元環で局所だと仮定する。また $\mod\Lambda$ の部分圏 $\CC$ がIE閉とする、すなわち次を満たすと仮定する:
- $\CC$ は像を取る操作で閉じている。すなわち、$\mod\Lambda$ での射 $f \colon C_1 \to C_2$ について、$C_1, C_2 \in \CC$ なら、$\image f \in \CC$ を満たす。
- $\CC$ は拡大を取る操作で閉じている。すなわち、$\mod\Lambda$ での短完全列 $0 \to L \to M \to N \to 0$ において、$L, N \in \CC$ なら、$M \in \CC$ である。
このとき、$\CC = 0$ または $\CC = \mod\Lambda$ である。
いま $\Lambda$ が局所なので単純加群は一つしかなく、それを $S$ とする。任意の(長さ有限)加群は単純加群の有限回の拡大でかけるので、IE閉部分圏 $\CC$ が0でないならば $S$ を含むことをみればよい。
0でない加群 $M \in \CC$ を取れば、$M$ は有限生成なので全射 $M \twoheadrightarrow S$ が取れ、また単射 $S \hookrightarrow M$ も取れる。よって $S$ は合成 $M \twoheadrightarrow S \hookrightarrow M$ の像であり、$\CC$ が像で閉じるので $S \in \CC$ が従う。
このことから、加群圏の分類という立場からすると、局所環上では多くの部分圏のクラスについて自明なものしか存在しない。
しかし「像で閉じる」という条件を落とせばいろいろな部分圏がある。例えば、半単純でない局所環 $\Lambda$ を取れば($k[x]/(x^2)$ など)、$\proj \Lambda$ は拡大と直和因子で閉じるが、全体に一致しない。